▪️Nによる寄稿

 以下は元妻 奈々(仮名)による寄稿文である。四月に入り次女の育児で問題が発生し、家族一同で介入していた。

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T先輩に運良く一時的な結婚して貰ってたNです。周りからラッキー野郎だと思われてます。ほんとにラッキー野郎だと思って感謝してます。

宝者のムスメが定型発達じゃない事が判明しました。コーちゃん程じゃないんですが結構な高iqでした。小学校入学後から登校offにして勉強と、音楽関連の家庭教師付けて貰ってます。

ホッとしてます。コーちゃんが賢過ぎなんでわたしが産んだ子供がお馬鹿だったら、立場がないんで。

T先輩に八年も幸運にも相手にして貰って、言い方悪いんだけど子供まで作って貰って。宝クジ高額的中レベルの幸せです。先輩には義務しか無いにしたって毎月のお手当てがありがた過ぎて。多過ぎる養育費とプレゼントや何か。

ムスメがT先輩を別な意味のパパ、わたしにとっての利害関係があるパパに思ったら教育上良くないんで。華先輩やコーちゃんとも定期的に会って、遊ぶ事になりました。コーちゃんは偏見が無い大人びた人です。本当のお嬢様ってあんな女の子の事を言うんだと思ってて、うちのムスメがあんなふうに育つか心配してます。わたしに似てガメつい、やーな感じに計算高いオンナになりそうで。T先輩の教育がムスメには実践されてないから。

身の程知らずに勢いでT先輩の事を借りた、バチが今当たりつつあると思います。産んだし育ててるから必要経費以上に金品貰える反面、頭が良過ぎる子供が生まれてわたしの生き方は責められてます。ムスメから。頭の中身がわたしより成熟してるムスメが、雰囲気で圧かけて来るんです。

あっちの家に生まれてたはずなんだよ、あっちの家に生まれたかったんだよねって本音を感じます。T先輩が父親としてちゃんと家にいて、海外遠征(旅行)とかも連れてってくれる家。

先輩は英才教育には全面的に参加してくれて、環境整備してくれてますけど。ムスメに興味がT先輩にあるとしたら、どんだけ音楽の世界で伸びるかって点だけだと思ってます。

わたしの将来の展望はお婆になるまで薬剤師、お金を貯めます。T先輩が助けてくれるのはムスメの大学卒業まで。後は頼れません。頼りません。再婚は無しです。誰と付き合ってもT先輩と比べて落ち込むんで、もう疲れて婚活辞めました。華先輩の巴お姐が言ってた通りで。オトコは全部同じです。長所、短所がプラマイゼロでみんな一定値でした。持ち点10として怒りっぽいで➖2なら連絡マメで➕2みたいな。それが全員にあるから誰でも、付き合う基準満たしてる人はだいたい10点で10点から上がらないんですね。T先輩は20点は持ってると思ってるけど冷たいんで。やっぱ➖10です。

華先輩のすごい所はあんな怪物級の人の手綱握ってて、ダンナを「犬」って呼んじゃえる事です。犬がやらかしても可愛いから許せるんだって。華先輩には感情の起伏が激しいムスメが完全なついてて、やっぱわたしは華先輩の所に来るべき宝者を奪って産んだのかも知れなくて。華先輩が子宝祈願してくれたのは、先輩の愛だったはずなのに神様からは罰を貰ったかも知れないんです。

T先輩を欲しかったのもT先輩の子を欲しかったのもオンナとしての欲です。過ぎた欲で過ぎた欲に対しては罰が来るって、今になって身に染みてわかりました。

 

 

▪️事実か否か

以下、光生による文章である。彼は華との合作である小説【枷なき夢路】を読了後にLINEで以下の文をこのblog内に載せて欲しいと告げた。

 

枷なき夢路;

https://yumezi.jimdofree.com/

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この話は明らかに俺らの高校生の頃のifだと思った。華ちゃんは高良をけしかけて、あの人を殺させる事が出来ただろう。で俺も手伝わされたに決まってて実際手伝ったはずだ。

登場人物の主人公の独り言が激しい奴が俺だったと思うが、華ちゃんには『そんなに純朴じゃないでしょ』とか言われた。心外だ。俺こそ純朴青年だったはず。女好きなのは設定外だけど。

華ちゃんの親の実家みたいな場所にそっくりな舞台で、あの話は不気味だ。高良は真似されないように濁して書いたっぽいが、アレは本当に計画してたんだろう。リアル過ぎて怖い。

だが、あの人は本当に殺されて死んでも困らない人間だった。それだけは間違いなく言える。

それと女の子の描写は昔の華ちゃんぽかった。あんな感じだった。もうちょっとぶっ飛び気味だったが高良も書きたくなかったんだろう。華ちゃんも自分の過去なんか客観出来ないんだろうし。

繰り返し言うが俺は主人公の良い奴に近い。そこだけよろしく。

◾️仕事の礼式

 仕事に於いて迚も斯くても人柄に勝るものは無い。機転が利き円転自在に振る舞える人物。ポジティブに物事を受け止め、失策を昇華させる意気が有る人物。

 

 人を採る際、学歴には重きを置かない。一先ずは卒業した大学でなく出身高校を見る。中学時点で一般的な努力をしたか否か、基礎的な学力が有るか否かを判断する。成績が揮わない場合、何をしていたか尋ねる。部活動、ボランティア等であれば具体的に成した事と獲得したものを尋ねる。

 院卒ならば何を研究していたか尋ね、究めるに至った動機を聞く。基本は文系なら評価しない。院ロンダ(学歴ロンダリング)か否か見極める。

 新卒採用をしていた時期も有るが、中途採用が圧倒的に多かった。年齢よりはスキル、スキルよりは経験を見たが経験より重んじるのは人柄だ。

 目を見て話を聞いているかどうか。論理的な話題で理解力が有るのかどうか。ネガティブな言動が無いか。ただ働くのでなく会社に何を提起、或いは提供出来るのか。自分なりに現代社会に対する考え方を持っているか。

 

 仕事に対する姿勢には人格が表れる。言い訳が多い者は向上心が無い。周囲の人間とコミュニケーションが取れないどころか、摩擦を起こすだろう者は要らない。自信の無い者も要らない。必ずトラブルを引き起こすからだ。

 「この職場に在る自分」に疑問を抱く事は悪くない。それが現実逃避でなければ。転職の経緯を理路整然と説明出来るか否かも観察する。

 

 可も無く不可も無い者は採らない様にしていた。個性が無い、つまり発展性も無いからだ。個性の塊でありながら「可も無く不可も無い」表情を装える者は好ましい。それは機転が利くという長所に入る。

 一度採用すれば縁が象られる。採用した責任が有るからして公私に亘り面倒は見る。公私に亘り面倒を長く見たいと感じられる者を採る。

 やはり最終判断は人柄に尽きる。

 

◾️犯罪者の面接

 父の会社に勤めていた時期、人事権を有していた。そこで前科を持つ人間に会った。

 通常であれば書類の段階で撥ねるのだが旧帝大卒という事で部下が一次面接を通したのだ。

 自分は最初から落とすつもりだった。

 最初に証明写真を見て気分が悪くなった。調べると氏名と出身地、年齢と履歴書の空白期間で未成年者に対する強姦罪により服役していたと分かった。ありふれた氏名であり、特定出来ないと考えて応募して来たのだろう。

 

 二次面接当日、本部長・事業部長と共に彼の人物に応対した。

 身なりや表情といった外見は好青年であり大多数の人間は、その人物を「普通の人」と評するだろう。現に一次の面接官にとっては好印象。評価は高かった。しかし両眼の奥に禍々しい念を感じた。

 大学の休学期間に何をしていたのか、わざと執拗に尋ねた。事件に勘付いていると暗に相手に伝えたのだ。

 答えは曖昧に濁した内容だった。次に社是を言えるか聞くと再び有耶無耶に誤魔化す。本部長並びに事業部長へ、意志薄弱な人物と印象付け採用を避けた。

 

 その日帰宅し玄関に入ろうとすると華が「気持ち悪い人と会ったでしょ」と開口一番に声を潜めた。こちらの頭部を中心に、やや離れた場所から紋を斬り祓い出しを始めた。彼の人物の生霊といったものを祓ったのでなく、その日の夫の不快感を祓っていたのだ。

 婦女暴行に反省の色が無い様子は、実に不快だった。服役の意義を問う。

 

◾️ジンのミスト

 欧米諸国の人々と比較し、自分が然程アルコールに強いとは思わない。遺伝的に日本人はアルコールを無害化する機能に劣るのだ。

 欧州のモンゴロイド系以外の人種は酒豪しか見た事が無い。彼らは日本人であれば急性アル中になる量を平気で呑み干すが、せいぜい陽気になる程度で酔い潰れるという醜態を見せない。その点、非常に品位の高さを感じる。

 

 二十代では出張先でアイリッシュパブにて周囲に合わせグレンリベット(スコッチウィスキー)をストレートとトワイスアップ(1:1の水割り)で多量摂取し、ホテルに戻り嘔吐した事も有った。

 本場ではロックという飲み方は存在しない。「それはスコッチの愉しみ方ではない、日本人はおかしい」と囃し立てられる。作法が有り、加水する前にストレートで味わえと言うのだ。

 同僚はともかく上司は欧州寄りの肝臓の持ち主だった。パワハラ等は彼の常識。「潰れる迄、呑んでこそ漢」という昭和理論を振りかざす。敢えて男と書かず漢と書かせて頂こう。

 

 呑む事には付き合えたのだが、ロンドンに一時期オープンしていた酒の吸引店には参った。

 ヴィクトリア時代の建造物。

 アルコールの濃霧が広がるアングラな内部に足を踏み入れ、吸引により急速に泥酔させるという悪趣味で享楽的な空間である。

 中毒を引き起こし死に至らせる目的かの様な毒ガスの中、女漁りをしているブリティッシュ達には辟易した。濃霧の正体はジントニックで一見、悪影響は無さそうだ。だが仮に酩酊しても、水蒸気の吸引の為に吐いて平常に戻る事が不可能。肝臓で充分な分解が望めない。急激に酔いが回る仕様である。

 自分の場合、アルコールは問題では無かった。しかし気道過敏が幼少期から見られ、疲労時に湯気や気温変化で咳が止まらなくなる場合が有るのだ。店内は湿度が異様に高く、咳の度に深呼吸をしてしまい過度に吸引する事態になった。

 

 店内滞在には制限時間が設けられている為、事無きを得た。仕事上で胸奥より辛いと思ったのは、あれが最初で最後である。

 

 

◾️鏡の彼方に

 現在丑の刻です。西洋の悪霊の話をします。この手の話が不好きな方々は日中に読むか読む事を断念して下さい。

 

 高校卒業間近の二月でした。この時期の自分は無気力ではありましたがPCでの海外サイトの回遊はしていました。青少年が興味を抱く類の怪し気なサイトではありません。呪術、特に呪殺について関心が有り調べていました。

 特に殺害したい対象は存在していません。実際に死ぬのか否かのみ、試したかったと言っておきます。……誰が実際に死ぬかどうか?論を俟たず、自分がです。

 ロシアのBBSで魅惑的な呪法を見付けました。その方法は【スペードの女王】という名を冠していました。

 チャイコフスキーのオペラにも同名の作が有ります。作家アレクサンドル・プーシキンの短編のオマージュと言えます。しかし、この呪術はそれらとは全く異なる内容でした。

 詳細は危険な為に省きますが鏡に血で階段を描き、ロシア語の呪文を詠唱する事でスペードの女王と呼ばれる悪霊が出現します。スペードの女王は召喚した者の願いを叶える力を有するが、叶えた直後にその者を呪い殺すという内容でした。何を以て割り出したのか不明瞭ですが、致死率100%とあります。

 イタリアの心霊研究会にて検証が行われ、六人のメンバー全員が死亡。その記録だけは照然たるものの様でした。

 スペードの女王と呼ばれる悪霊は生前、孤児院を経営していたが女児は娼館に男児は僻地の労働力として売り払い財を築いていたものの時の権力者に事実を暴かれ処刑され逆恨みをしている……といった謂れが有るとの事。

 

 前置きはさて措き。

 高校の図書館にて放課後に時間を潰し、トイレの鏡に向かい合いました。十七時前。明かりを消せば雪国の二月の夕刻は薄暗闇に侵食されています。冷気が辺りを支配し、スペードの女王なる者が現れても不思議の無い情況に在りました。

 右手の中指にカッターの刃を食い込ませると、鏡に階段の図を描く程度の出血が望めました。気温が低い為に血の出が悪く、描いている途中で二度目の傷を作る必要が生じました。描き終えると呪文を暗唱しました。

 変異は直ぐに起き、鏡の彼方に華の姿が視えました。自分の一念は華に会いたいという事のみであり、彼女は自ら死んだのだろうと考えていた時期です。願成し、彼女の霊が来たのだと驚愕しつつも恐怖に似た歓びが湧き上がり。しかし。

 鏡の中の自分の固まった表情に目が移り、次に鏡の中の自分の右手が全く出血していない事に気付きました。依然として出血している実際の右手を動かしてみても鏡に映る自分は動きません。華の霊らしき者は鏡の中の自分の隣まで迫って来ていました。

 息がかかる程の距離で鏡を見ると、彼女の目ではないと分かりました。スペードの女王と呼ばれる霊が華の姿を真似ているのだと気付き「お前は華ではない、お前には願いを叶える力が無い。即ち俺を殺す力も無い」と英語で告げました。

 ロシア伝承のスペードの女王が英語を解するのか定かではありませんが、その場からは何事も無く離れる事が出来ました。

 鏡の血を拭い右手指を水で洗いハンカチで包み手袋を着ける間、鏡の中の自分は微動だにせず視線だけを動かすという気味の悪い表情をしました。その隣で華の姿をした霊が同様に視線だけでこちらの動作を追っています。

 霊で良いから華と会いたいと願っていたのだが、期待外れでした。意識するよりも期待が大きかったせいか激しい落胆に襲われました。

 窓・生徒用玄関のドアに自分が映る度に先程の華の姿の霊が現れます。その隣の鏡に映る自分は正面を向いたまま無表情で動きません。

 自宅に帰り真っ先に洗面所の鏡を見ると鏡の中の光景は、平時と変わらず。クリスチャンホームである自宅には、あの霊は入る事が出来ない様でした。

 

 この後二十歳で華と再会する迄の期間、水面や鏡、それに類するものには動かない自分と華の姿に似せた霊が現れ続けました。それ以外の障りが起きない為に放置していました。

 実物の華に会った途端、鏡の情景は元に戻りました。こちらが手を挙げれば鏡の自分も当然ながら手を挙げます。

 あれは何だったのだと二十歳の華に電話で尋ねた所、彼女は静謐な声で密かに笑いました。

 『何でそんなに危険な事をしたの?魂を半分握られたから鏡の多嘉良が動かなくなったのよ。スペードの女王に喧嘩を売った人なんて世界中であなたしか居ないんじゃない』

 スペードの女王は、華を呼べませんでした。華の姿を完全に真似する事も出来ませんでした。甚だしく未熟で精神の定まりの悪い往時の自分を騙す事すらも不可能でした。

 華に会いたいと一心に願っていた頃を追懐すれば、感に堪えません。あらゆる呪術を試し今を獲ました。

 この呪法は禁忌ですので弟子にも伝授しません。

 

 

 

 

 

◾️六年半前に何が起きていたか

 昼下がりに書いています。投稿は夜半過ぎになる事でしょう。

 窓の外は真冬らしからぬ麗らかな空が広がっています。一月と言えば重い雪景色を好みますが、気象と女の気性だけは下手に弄らず放置しておくが英明な判断と言えます。

 

 現妻である華を元配偶者である光生から勝ち得る迄の間、至難の道が闇の中で黒く口を開いて待っていました。第一の難として、華が全く光生との離婚を望んでいなかった事が挙げられます。

 性交渉に於いては有無を言わせず、早々に再開しましたので良しとします。元を正せば彼女は自分の女でしたから光生から取り上げたのでなく、取り戻したのだと辯明しておきます。

 詳細は以下https://hanagatamix.hatenablog.com/entry/2020/10/04/171849

   華に関しては未だ判然としないパーソナリティーの人間であり、日々発見が尽きず飽きない結婚生活ではあります。しかしながら六年半前と言えば異性としても人としても甚だしく見当が付かない事の連続でした。

 説明する事が自らのプライドを削る様で厄介ではありますが、彼女は二人で居る貴重な時間に意識を別方向へスライドさせ深い交流をしない姿勢を貫いていました。光生と別れ、こちらと再婚する迄の間は断固として。

 対峙している人間の心がここに無い事は霊感等が薄くとも誰しもが感じ取れるでしょう。その時の虚しさを想像出来るでしょうか。体は差し出しても精神を1ミリも傾けてはくれない寂寞。

 有り体に申せば六年半前に恋愛が再興したのでなく、自分が共同経営をしていた彼女に対し無力な暴動を起こしただけです。

 現在、妻に盲愛を示しても彼女は心底からの愛情を返してくれません。彼女の愛とは全ての生きとし生けるものに、あまねく注がれており「夫」は「その他多数」と変わらぬ様です。眼前に野犬が在れば夫と野犬への愛が等しい訳です。そんな筈が無いだろうと読者諸君は思うでしょうが道路で猫が轢かれて死んでいれば彼女は、この世の終わりかという声で慟哭します。

 

 愛するという行為は何か、抽象でなく答えられる方々が居られるでしょうか。

 少なくとも神を愛するとは戒めを守る事だと幼少の折に刷り込まれました。従順で在れと物心ついた頃から躾けられた次第ですが、自分は華を神の遣わした存在だと確信し彼女に従い彼女を想い彼女が喜ぶ事だけを選んで生きて来ました。

 彼女に対し、神に対して見返りが少ないと苦言を呈する事は何とも人間的です。

 自分は時に憐れみを欲します。憐れみとは聖書に於いて一方的に愛を注がれる事を指します。決して上下関係でなく対等な状態で。

 この自分の生育の過程で問題が生じたのか、はたまた彼女が真正のサディストであるのか今後の夫婦関係で計りたいと考えます。