◾️中間生記憶

 中間生記憶とは胎内に宿る以前の記憶を指す。自分にはそれが有る。

 白い羽毛に包まれた世界に居た頃の記憶だ。

 

 羽毛は温かく、下側は特に熱を孕んでいた。毛足の長い絨毯。或いは電気毛布といった感触に近い。

 空中も白いが、白には種類が有る。そちらは乳白色だった。

 そこには白い羽根を持つ巨大な何かが居た。人間が想像する天使の如き羽根でなく、悪魔めいた羽根を広げた姿をしていた。しかし、その何かは全長が確かに純白だった。

 純白の何かは羽毛に包まれた地から、白い毛球を触手で拾い上げる。毛球は象牙色のものと白米色の二種類が有る。毛球は羽毛の地から更に下、下へ下へと一つ一つ堕とされて行く。

 やがて自分の番が来た。

 掬い取られた様でもあり、摘み取られた様でもあった。恐怖や歓喜といった感情は無く、只為されるがままだった。

 自分の毛球が何色をしていたのか判別は出来なかった。

 次に居た場所は赤く狭い部屋。心地良い振動が有る。滝の様な音もする。あまりにも全てが完璧に揃っている為、出たいと思えない。

 

 この話を十三歳当時の妻にすると、彼女は確然たる事として解説してくれた。

 《純白のものは赤ちゃんを司る神様。象牙色の毛球は堕胎されたり死産になる赤ちゃん。大人になってから重犯罪を行う赤ちゃんも象牙色、でもよく見ると象牙色よりも灰色に近い。ご飯の色の毛球は元気に幸せに生きられる赤ちゃん。だからあなたの色は、そっちの色。自分じゃ自分の色は見えない》